堤未果 素敵すぎて変になりゅーーー

ルポ貧困大国アメリカ 堤未果 読みました

『企業と高額所得者から税金を多く集め、その所得を教育や医療、福祉制度によって中間層に再分配するという政策はやがて不況におけるインフレを招き、それを打開するための新自由主義が登場したことで、アメリカの中流階級の基盤は大きく揺らぐことになる。福祉重視政策だったニクソン大統領と対照的に、第40代ロナルド・レーガン大統領は効率重視の市場主義を基盤にした政策を次々に打ち出し、アメリカ社会を大きく変えていった。目的は、大企業の競争力を高めることで経済を上向かせること。そのため企業に対する規制を撤廃・緩和し、法人税を下げ、労働者側に厳しい政策を許し社会保障を削減する。その結果、安価な海外諸国の労働力に負けた国内の製造業はみるみるうちに力を失い、労働者たちは続々と失業者となった。中間層が貧困層に転がり落ち、代わりに主流となったサービス業(金融、IT、コンサルティングなど)が一部のエリート層で事足りる性質であったことから、国内の所得格差が急激に広がっていった』

『ハリケーンニューオーリンズの町を襲った時、住民の多くが市の退去命令に従わず、そのまま残って溺れ死にました。FEMAの長官はそのことを批判したが、みんな逃げたくても逃げられなかったんです。あの町の住民たちはほとんどが貧しくて車なんか持っていません。救援バスも来ない中、一体どうやって逃げろと言うんですか』

『「やっと、ニューオーリンズの貧困者向け住宅が片付いてくれたよ。我々ができなかったことを、神が代わりにやってくださったのさ」 人影の消えた瓦礫だらけの居住区では、昔からあった低所得者用の公共団地が取り壊され、高級コンドミニアム群とショッピングモールが建設された』

『「もしこれがキューバだったら、あの子は助かったわね」アメリカの乳児死亡率は年間平均1000人に6.3人という先進国で最も高い割合だ(日本は3.9人)。だがもしこれが、全国民が医療と教育を無料で受けられるキューバと同じ制度であったなら、はるかに多くの子供を救うことができるだろう』

『会社に戻ることを拒否された時、残された選択肢は二つだけでした。この国に大勢いる無保険者の一人となるか、支払い能力を超えた医療費を払いながら貯金を使い果たしてメディケイド受給者になるかです』

『民主主義であるはずの国で、持たぬものが医者にかかれず、普通に働いている中流の国民が高過ぎる医療保険料や治療費が払えずに破産し、善良な医師たちが競争に負けて次々に廃業する。そんな状態は何かが大きく間違っているのです』

『「政府はちゃんとわかっているんです。貧しい地域の高校生たちがどれほど大学に行きたがっているかを。そしてまた、そういう子の親達に選択肢がないこともね」 息子さんの夢を親であるあなたが叶えてやれないなら軍が代わりに実現しよう、と持ちかけられ、最後のチャンスだとばかりに契約書にサインする親は多い』

『政府の新自由主義政策の流れで教育予算が大幅に削減された結果、この学資ローンの貸出機関も急速に民営化が進んでいる。政府が保証人の役割を果たすことに加え、教育予算から利子を供給してくれることから、貸し手にとっては非常に割のいいこの「学資ローン」は、金融機関の間では「ドル箱」と呼ばれているという』

社会保障費を削減し、大企業を優遇するという政府のやり方は、セイフティネットが無い中で教育や雇用の場所を奪われた若者たちに将来への希望を失わせます。今私のところに相談に来る帰還兵たちの大半が、新自由主義の犠牲になった若者たちのなれの果てです。帰還兵の自殺率を犯罪率の高さと、生活保護にかかる費用を考えたら、国が教育に金をかけ、若者の「自己承認」や仕事の「技能」を伸ばしてやり、企業が雇用しやすい人材を育てる方が余程理にかなった投資ですよ』

『日本人としてイラクに行ったことで、ニューヨークにある日本のメディアには随分追いかけられました。でも、なぜそんなに騒ぐんです? 苦しい生活のために数少ない選択肢の一つである戦争を選んだ僕は人間としてそんなに失格ですか? たまたま九条を持つ日本に生まれたからといって、それを踏みにじったとなぜ責められなければいけないんでしょう? 

 アメリカ社会が僕から奪ったのは二五条です。人間らしく生き延びるための生存権を失った時、九条の精神より目の前のパンに手が伸びるのは人間として当たり前ですよ。狂っているのはそんな風に追いつめる社会の仕組みの方です。僕が米兵の一人としてイラクで失う命と、日本で毎年三万人が自ら捨てる命と、どちらが重いなんて誰に言えるんですか?』