成果主義の崩壊

内側から見た富士通 城繁幸 読みました
『肝心の課長は評価委員会には出られないので、あとから課長に確認したら、「オレも出てないから全然わからない。オレも納得できないんだ。今回はこらえてくれ」の一点張り。実際はほとんど顔も合わさない部長たちが、評価を一方的に決めているらしいが、そもそも部長たちは、われわれ部員たちの担当業務をきちんと把握しているとは思えない』
『そして、発言する部長がだんだんと序列下位の部長になるにつれ、ほかの部長たちから、評価に対する指摘が入るようになっていった。特に最後に発言した新任の部長などは、実に10人もの部下の成績を引き下げることを、諸先輩方から泣く泣くのまされたのだから、さすがの私も驚いた。「成果主義などと言っても、これでは結局、年功序列評価のままではないのか」と改めて思った。』
『ただでさえ変化の激しいIT業界にあって、半年先までの予定をたて、かつそれを維持するのは不可能に近い。たとえ最初に完璧な目標をたてたとしても、それが半年先まで有効かどうかは誰にもわからない。業界の動き、ライバル企業の動き、また、マーケットの動きによっても、目標は変わる。しかし、最初にきちんとした目標をたててしまうと、この動きに対応できなくなってしまう。目標というのは、たてる前後では、必ず実状との間にギャップが生じるものである。「もう誰もこのギャップを埋めようとしないわけだ。これでは、品質のチェックもおざなりになってしまう。まったく、成果主義はいいことなんて一つもない」』
富士通の「成果主事」は、その欠陥をあげれば枚挙に暇がないほどの失敗作だが、その最大の欠陥は、「降格制度」が存在しないことにあるだろう。』
韓非子によると、申告以上の成果を上げた者というのは、最初に「これ以上はやれない」と言っているのだから、ごまかそうという意図がある。だから、このごまかしを許すとしたら、それは多少大きな成果を上げたくらいではカバーできない。だから、罰を与えなければ、部下は職分をまっとうしなくなり、やがてかばい合いが発生し、組織のまとまりは失われると説いているのだ。』
『新人事制度の下で「もうこれからは40代以上の従業員は管理職に登用しない」という内規がどうやら人事の中えできたらしいと伝わると、40代で管理職寸前のポジションにいた働き盛りの中堅社員は、いっせいに仕事以外のことに生きがいを求め始めた。』
『失敗を恐れるあまり長期間にわたる高い目標に挑戦しなくなったため 1ヒット商品が生まれなくなった 2納入した商品のアフターケアなどの地味な通常業務がおろそかになり、トラブルが頻発して顧客に逃げられる 3字分の目標達成で手いっぱいになり、問題が起きても他人におしつけようとする』
『第一目のアンケート後に人事が行った個別面談による締め付けは、ここで威力を発揮した。なんと、新人事制度に対して満足していると回答した従業員の割合は、前回の7割前後から一気に9割にまで上昇したのだ。当然の結果だろう。従業員番号を打ち込んだうえで回答するアンケートで、ブラックリストに載りそうな批判を口にするものはいない。もちろん、この結果は上に上がった。しかも「従業員の満足度を上げる」という人事の目標は達成され、本社人事の担当がSA評価を受けたのは言うまでもない』
富士通は、2003年秋から、就職情報誌などのランキング作成メディアへ、大量の広告出稿を行った。メディア側は、これである程度の順位を確保してくれる。また、調査会社から、いつどこで調査するのかという情報が提供されるから、順位を確実にするために、それに合わせて企業セミナーをローラー式に開催するのである。例えば、帝京大学東京経済大学など、本来富士通では採用対象にならない大学に対しても、このときは構わずにセミナーを開催した。「成果主義は素晴らしい」と、実態を知らない学生にPRした。はっきり言って。これで簡単に順位は上がる。』
『従業員から高い組合費を取り上げている以上、組合には果たすべき最低限の義務がある。リストラされた工場従業員に対してもそうです。義務を放棄した組合も、それをフルに利用する人事も、自分たちはなんの責任もとらず、すべてを一般従業員に押し付けている。』
『「年功制度」が維持されるためには、絶対必要条件が2つある。1つは組織が永遠に拡張し続けるとこ、そして、もう1つは既存のビジネスモデルが半永久的に変わらないことだ。しかし、この2条件は、バブル崩壊IT技術の進歩、グローバル化の進展などがあって、いまはない。』