北方領土交渉の舞台裏

交渉術 佐藤優 読みました
『例えば、ロシア情報をとるために国境を接しているラトビアとの関係を強化するという目標が与えられたとする。その場合、ラトビア人の国民性、歴史、ロシアとの関係、ラトビアとの関係、ラトビアに在住するロシア人の動静などについて調査するが、ある段階で、ラトビアの政治エリートと直接交渉し、先方を裨益する材料を何か提供して協力を確保する。』
アフガニスタンにいるタリバーンの残党とアルカイダの繋がりを断ち切れという日本政府の政策目標がインテリジェンス機関に与えられたとする。アフガニスタンは他民族国家であるが、タリバーンパシュトゥーン人を中心とする勢力なので、それと対抗するタジク人の部族長に日本の影響力を強化することを考える。その場合、アフガニスタンに直接歯行って工作を行うのは危険なので、世俗国家で対日感情も良好なタジキスタンを拠点とする。』
『マフィアとは取引するしかないんだ。マフィアとは絶対に喧嘩してはならない』
『カネが好きな情報提供者と付き合うと、どこかで必ず事故を起こす』
『駆け出しの情報員が失敗するのは、相手に出来高制、すなわち持って来る情報の量と質に応じてカネを払うという方法である。その場合、カネ欲しさのために荒れた情報や捏造情報を掴まされる可能性が高まる。情報をカネで「買う」のはレベルの低い方法なのだ。』
『「自分のカネを仕事に使うんだから問題ないじゃないか」「それは違う。滅私奉公型でも公私の線を一旦越えると。権限をもって組織の金を自由に使えるようになったとき、過去に組織のために持ち出した分を取り返してもいいという気持ちになる。しかし、人間の認識は非対称なので、持ち出した額よりも遥かに大きな公金を流用しても何とも思わなくなる。」』
『松尾氏が服役してから5年9ヶ月になるが。松尾氏のことだから刑務所では模範囚として過ごしているので、そろそろ仮釈放になってもおかしくない。松尾氏が取り調べや法廷で呑み込んでしまったことを、全て表に出せば、外務省に激震が走ると思う。私の予測では、外務省は、痕跡がつかないように二人くらいの仲介者を通じ、松尾氏が釈放になった後、可及的速やかに接触し、口止めを画策し、その見返りに一生生活の面倒を見ることになると思う。』
『永田町言語を日常言語に訳すと次のようになる
「俺は気にしていないぞ」→「俺は気にしてないということは、お前の方で反省して謝りに来いということだ」
「行儀が悪い」→「ゴリ押しする。自分の管轄分野以外に手を突っ込む」
「近く俺が挨拶に行くから」→「すぐに来い」
「俺は聞いていない」→「この件は俺に事前に相談していないので絶対に認めない」
「他の先生を大切にしてください」→「他の国会議員と比較して、俺を軽く見ているな。今に思い知らせてやる」
「忙しそうだな」→「お前は何を画策しているんだ」』
『政治家の逆鱗と琴線は隣り合わせにある』
エリツィンは、あれをすればこれをしてやるといった、駆け引き型の交渉を嫌う。特に日本側は、北方領土を返せば、経済協力をする用意があるというようなレトリックをよく用いる。これは、日本が経済協力をやろうとすればできるのだが、条件をぶらさげて、ロシアが領土で譲歩しないから協力してやらないという意地悪戦術とエリツィンは受け止める。そうなると「日本の経済協力などいらない」ということになる。日本側の柔軟論なるものも、まず四島に対する日本の主権を認める。そうすれば条件を考えてやるという日本側が一段高いところに立った交渉戦略だ。このようなレトリックにエリツィンが乗ってくることはない』