心神喪失の名のもと、罪に問われぬヤツがいる

そして殺人者は野に放たれる 日垣隆 読みました
『昌生君の医療費を、国は一銭も負担していない。二人を殺した西島は、通行人に取り押さえられた時、ちょっとした怪我をした。その治療費は全額、国が負担している。この年、日本全体で加害者には総計46億円の国選弁護報酬と、食料費+医療費+被服費に300億円も国が支出した。対照的に、被害者には遺族給付金と障害給付金を合計しても五億7000万円しか払われていない』
『どうやら普通ではないらしい との情報を明石署から得た記者たちは、被害者三人を実名報道しながら、凶悪犯の名前を伏せた』
『犯人の実名は避け「男」または「土木作業員」とだけ書き、これで人権配慮記事いっちょうあがり、ということらしい』
『大量殺人を犯したあとで、殺す相手は誰でもよかった、天の声に命じられた、となれば執行猶予や無罪どころか起訴もされなくなる。日本ではこんな屁理屈がとても簡単に通ってしまうわけです』
『まことに我が日本は、酒好きには天国である。現代文明諸国中、酒を飲みすぎ弁職能力を失い、他人を殺傷した犯人をこれほど法律で厚く保護している国は実に稀である』
覚醒剤使用中の殺人ゆえ刑を軽減す』
『違法な覚醒剤を凶器のごとくテコとして使ったのだから、凶悪犯罪である彼の罪がより重くなる、というのなら誰しも了解できる。だが、証拠もなしに「いつもより強い」覚醒剤を打っていたという証言を鵜呑みにして、それを理由に、刑の倍加ではなく、むしろ減軽すべしという法的屁理屈を承服できるだろうか』
『二人以上の殺人犯は、日本の法律では死刑が相応とされてきた。違法の覚醒剤を打っていれば二人殺害でも不起訴または無罪、あるいは刑を軽くするというのは、国民の理にかなうことなのか?』
判例上「了解しがたい異常さ」が無罪または刑半減の根拠とされているのであってみれば、これでは、異常な行動をとったほうが罪は軽くなると助言しているに等しい』
『このような即席の鑑定人に税金を浪費する暇があったら、せめて被害者遺族が裁判傍聴や証言に立つ日の交通費や、捜査段階での室内破損への補償費を賄うのが道理というものだろう』
鬱病は、犯行に至る前に治療し完治することのできる病ですし、そのことを充分に知りながら治療や服薬を途中で放棄した人に、責任能力なしとのレッテルを貼って無罪にする悪しき司法慣行を、是非改めるべきです』
『新潟少女監禁事件の佐藤宣行は「分裂病人格障害」、JR下関駅で15人を無差別に殺傷した上部康明と、また大阪教育大付属池田小学校で8人の児童を殺した宅間守はいずれも「妄想性人格障害」、佐賀西鉄バスジャック殺人事件の少年は「解離性障害および行為障害、神戸連続児童殺傷事件の酒鬼薔薇少年は「行為障害、性障害、解離性障害」との精神鑑定がそれぞれ裁判所に出されている』
『日本は世界一、犯罪者に優しい国であり、量刑が最も軽い国なのである。こうして、犯罪者人格たる彼らは、何の治療処遇も受けることなく、何度も何度も野に解き放たれてしまう』
『凶悪犯罪の重大な結果を、生い立ちで割り引こうという馬鹿げた発想が、この国では記者にも判事にも共有されているらしい』
『のちに儲け話がこじれて、共犯者とともに彼は刺殺事件を起こす。が、死体遺棄と逃亡に行き詰まり、彼は二人の共犯者にこう言っている。「事件は自分ひとりでかぶる。ハイジャックも精神異常で無罪になった。自分は刑務所に行かなくていい、入院すればいいし、すぐに出られる」すべて精神病のせいにして「なかったことにしたハイジャック犯に対する異常な「寛大さ」が、殺人事件を結果したとしか言いようがない。』
『実は、同時代に起こされたこの二つの事件で、それぞれの被告に心神耗弱が認められた判決の瞬間、二人はまったく同じ反応をした。ニヤっと笑ったのである。』
『9人を即死させ6人に重軽傷を負わせた聾唖者による大量殺人事件では、弁護人も精神鑑定人も「社会の責任」だと主張した。聾唖者は全員、同様の事件を犯しても不思議はないと言っていることになる。実際には周知の通り、類似の事件など一件も起きていない』
法曹界でもあまり知られていないことだが、心神耗弱(限定責任能力)という曖昧な規定を、ノルウェーは1929年に、スウェーデンは1945年に早くも刑法から削除している。ロシアなど旧ソ連構成各国。ブルガリア、旧チェコスロバキア、ペルー、ギリシア、マレーシア、タンザニア、ネパール、アルゼンチン、フランス、オーストリア、ベルギー、ポルトガルなどにも心神耗弱規定はなく、州ごとに刑法が異なる米国でも、カリフォルニア州心神耗弱に基づく刑の軽減という原則を廃止し、モンタナ州アイダホ州ユタ州などでは、精神障害を理由とした不起訴や無罪の主張そのものが出来ないよう刑法が改められた』
『考えてみれば日本では公務員は、ぬるま湯のなかでごく稀に懲戒免職がなされることがあるとしても、それらはすべて身内の行政処分でしかない。精神障害犯罪者に対しても、日本では行政処分しか受け皿が用意されていないのは、法務省厚生労働省の長年に及ぶ姑息な縄張り争いにすべての原因がある』
『甚大な被害にあってから初めて現行刑法の不条理を知る、というのは悲しいことです』