リーマン・ブラザーズはなぜ暴走したのか

金融大狂乱 ローレンス・マクドナルド 読みました
『おもしろいことに、ヨーロッパ主要国の指導者たち、特にイギリスの指導者は、さも得意げに自国の低いインフレ率を語り、みずからの思慮深さの先見の明を称賛してはばからない。しかし、彼らの主張は大きく的をはずしている。インフレ抑制の功労者は、中国と安い中国製品であって、それ以外の何者でもないのだ。上海などの港からは、アメリカ行きの貨物船団が次々と出航していったが、これらの船に満載されていたのは、他の国でなら2倍はコストがかかる消費財だった。全世界が格安の中国製品を配達させる一方、中国は対価として格安の米国マネーを持ち帰り、こうして世界中の国々がインフレをまぬがれたのである。もちろんアメリカ国内では毎週毎週、一万人分の雇用が失われ、地平線のかなたへ――インドやマレーシアや台湾や中国へ――移転していった。10億以上の民を抱える中国で安い労働力が潤沢に入手できなければ、このような状況は生まれなかっただろう。』
『住宅ローン会社は借り主の健全性には関心を払っていなかった。なぜなら、どうせ1ヶ月以内にリーマンやメリルリンチに売却してしまうからだ。リーマンもローンの質にはこだわらなかった。なぜなら、債権を市場でさばいてしまえば、リスクは債権保有者に転嫁されるからだ。好調な住宅市況のなか、この種の債権は飛ぶように売れた。買い手に名を連ねていたのは、イギリスのHSBCアイルランドのカウプシング、日本の東京三菱など、世界中の銀行だった』
『全米有数の農業地帯であるストックトン周辺の識字率が、全米最低の水準にあったことも、住宅ローンのセールスマンには有利に働いた。彼らの顧客の半分は、契約書を理解するどころか、読むことさえできなかったからだ』
『住宅価格が暴落すると、ローンを返済できなくなった人々が循環からはじき出された。投資家の買いが止まったため、CDO市場は崩壊した。シャドーバンクからあぶく銭が入らなくなると、人々は消費習慣を変えた。壊滅的打撃を受けた小売チェーンは、中国への大量発注を控えるようになった。中国による財務省長期証券の購入は減少し、中国の銀行からの資金流入にはブレーキがかかった。』
『コストの面からみても、政府の対応には疑問符がつく。リーマンを破綻させたことにより、政府はAIGに対する資金投入を余儀なくされた。リーマン破綻後の売り圧力は、市場に数百億ドル規模の損害を与えたとも言われている。もしも、リーマンを800億ドルで救済しておけば、AIGに1800億ドルの税金を注入する必要はなかったのだ――これは正論ではないだろうか?』